日曜日, 4月 02, 2017

23年ぶりの学会発表

昨年11月、もっとも仕事で忙しい時期であったが、自分で大学に提出したそれまでの研究のまとめとして、和文でいいからまとめて出せとの要請で書いたA4片面で約200ページに及ぶ(図表、引用文献を含む)一応論文のつもりでまとめた書類の控えを自己用に持っていて、それを時々開いては眺めていたがある一説が気にかかり、それだけで学会発表には相当すると思い、翌年の発表をいささか慌てて申し込んだ。

年齢・植栽密度の異なるアカマツ幼齢林分の呼吸消費量の推定について

Estimation of bark respiration loss of young Pinus densiflora stands differing their ages and density

書き上げたのは1995年9月の初め頃である。本来はその年の4月までにという要望だったが、書き始めると思ったほどはかどらず、おまけに5月に盲腸炎にかかり患部が大きな明太子ほどに腫れ上がり、全身麻酔の手術となり、右下腹部に長さ12cmほどの縦の縫合跡がのこっている。会社は2週間の休みが取れたが、どういうわけか出勤扱いとなり、給料が出たりしたので、早めの現場復帰となり、新座市で下水マンホールの蓋を開けた時などは傷口がピリッと破け1センチほど口を開けた。

たしかに努力はしたのだろうが全身麻酔による頭のボケもあり、日々の努力の有様は書いたものだけがのこっているだけで、どういう思いをしていたかの記憶はまるでない。

学部長は翌年の春には退官の予定だったので、半年でD論の審査は無理であり、申し送り事項とするから、このまとめの内容を最低3報以上の外国語(通常英文)として発表すれば教授にかかわらず学位審査請求が可能となる、とのお達しであった。

今覚えているのは、書き上げた論文を東京駅経由で大学に運ぶ途中そうとう高揚した気分であったということだけである。

その後、1996年8月にブルガリアのPlovdiv工科大学で毎年開催されている世界微分方程式会議に出席し、帰りはロンドンのキュー植物園を見学して、ヨーロッパアカマツや米大陸に分布する各種のマツ類なども見て帰った。

帰るとすぐに数学系の論文はLaTeXで書いて出すのが流儀となっていて半月から一ヶ月ぐらいでまとめて提出しておいた。この論文は英語での口頭発表約40分ほどの内容をまとめたもので、VSPという書籍に載せて頂いた。
RE-EXAMINATION ON VALIDITY OF ANALYTIC SOLUTION OF BESSEL'S EQUATION TO ESTIMATE THE MAGNITUDE OF FLUCTUATION OF STEM WOOD TEMPERATURE IN
STANDING Pinus densiflora TREES
PP147-154, 1967
Proceedings of the Seventh International Colloquium on Differential Equations
Plovdiv. Bulgaria. 18-23August. 1966
Editor:D. Bainov ///VSP/// UTORECHT, THE NETHERLANDS TOKYO JAPAN

この経験が自信となり、学会誌にもページオーバーの英文誌が載ったが、続けて書こうとしたが中味が結実していないので書けずに撤退。

科研として約1000万円ほど申請していたので、指導教官も中間報告を書き上げ、以下のようなタイトルの報告書を発表した。

樹皮呼吸の生態生理的研究 56480045
「昭和58年度科学研究費補助金(一般研究B)研究成果報告書」
昭和58年3月 研究者代表 *****
*大学農学部

 V. おわりに

 はじめにのべたように、樹皮呼吸は木化し、かなりの厚みをもち、しかも内部の通水組織に水が流れている、光合成器官の呼吸である。樹皮呼吸の生態生理的特性のなかで、かこまれた特徴のある『日中低下』は、上記の厚み、樹液流にくわえて、地中深くまで根系ををのばし、熱の伝わりにくい樹皮などの組織に幹や枝をもつ。樹木ならではの現象であろう。

 日中低下の原因の解明には、直接的な方法、たとえば呼吸により排出されたCO2の、幹内部での移動を追跡する方法がとれればつごうがよい。現実的には、こうした方法が困難なので、間接的な方法によって、原因を調べた。

 樹皮呼吸の日中低下を最初に報告したGEURTEN(1950)は同時に樹皮からの蒸散を扱ったこともあってか、原因として日中欠差を示唆している。そうした背景もあって、ここでは原因になりそうな要素の中から、まず水分欠差による呼吸自体の低下をとりあげた。結果としてはこうした生理的要因は比較的関係が少ないのでは、ということになったが、日中低下の原因をを生長の昼夜のリズムのような、ほかの生理的要因にもとめる考え方もある。(EDWARDS & McLAUGLIN 1978)。

 これらに対して、ここでは樹液流が関係する物理的要因が、日中低下の要因としてより有力との結論になった。樹液流による冷却や樹体温度の小さい日較差が、樹皮呼吸の日変化を特徴づけているとの報告はほかにもある(KUNSTLE & MITSCHERLICH 1976)。

 樹種によって樹皮呼吸速度の日中低下のおこり方に差があるかどうかは、はっきりできなかった。もし極端な樹種差があるということになれば、その理由をあきらかにすることによって、日中低下の原因をさらに検討できるかもしれない。

 樹皮呼吸量の推定に関連のある研究項目は、なお資料の整理中である。そのなかに樹皮呼吸の単位速度を求める場合の試料として、切断試料と傷つけない自然のままの立木の、いずれが適当かの問題がある。上記のように樹皮呼吸の日中低下が、呼吸自体の低下ではなく、主として物理的現象であるとするならば、この点に関するかぎり、一見不自然に見える切断試料のほうが、問題が少ないということになる。

   引用文献 略。


この資料のIV. まとめ
に移る前に以下のことわりが挿入されている。

 なお本研究の出発点のひとつである、樹皮呼吸による呼吸量の推定に関連して、主としてアカマツを対象にして、以下のような項目の検討が進行中である。いずれも最終結果をえるまでには、若干の時日を要する予定である。

1)幼齢林分の現存量、とくに樹皮呼吸量推定ののための非光合成器官の直径分布、年齢分布。
2)切断資料と立木でえた単位呼吸速度の比較。

3)呼吸速度の計算に使用する温度(気温、樹皮温度、木部温度、あるいは日平均気温、日平均温度など)が個体または林分の呼吸消費量推定値におよぼす影響。

4)樹皮呼吸速度の日中低下が、個体または林分の呼吸消費量推定におよぼす影響。







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