月曜日, 9月 17, 2007

岡 博士も日本人の中にある、状況次第でどうにもというより180度態度を変えてしまう人々に苦言を呈している。手を翻せば、すなわち雨というようなことばを使われていた、と思う。今から15年以上前に、右翼的だが、もう影響力はない、などと言論人紹介欄に書かれていたが、本来学者中の学者なので、そんなことはどうでも良い感じ。

新聞記者は、1週間ぐらい社会から遮断した環境で座禅でもしないと、まともなことはかけないはずだ、とも言っておられた。それはよいとして、数学教育には、水道方式を批判しておられたが、遠山先生の著作を読んでも、数学門外漢の私には、具体的にどこが悪いかは納得できなかった。

数学がわからなくても数学教育はできる、などというあたりが批判を呼んだのかも知れない。単なる技術でうまくやる、というような姿勢を批判されたのかもしれない。

さて、戦後の皇居前広場である。悲しいと言うか、当然と言うか戦後最初の集会は、何だったと思われますか。それは、1945年8月16日だというのである。

特殊慰安施設協会(RAA)の結成式だそうだ。広場では、「『昭和のお吉』幾千名の人柱の上に、狂瀾を阻む防波堤を築き、民族の純潔を100年の彼方に護持培養するとともに、戦後社会秩序の根本に、見えざる地下の柱たらんとす」という声明が読み上げられた、と言う。(川島高峰『敗戦』読売新聞社、1998年)

戦時中に鬼畜米英をさかんに流していた政府は、まだ見ぬ占領軍を男性とみなし、日本女性の純潔を守るべく、占領軍専用の(占用!?)国家売春組織を作ることを真っ先に考えた。

占領軍は進駐当初(45年10月)、約40万人おり、46年には半分の20万人に減ったが、主力は米軍であった。初めて東京を訪れた米軍兵士にとって、GHQ本部(広場に面した日比谷の第一生命相互ビル)の前に広がる空間は、「聖なる空間」どころか、公務の合間に欲望をはらす絶好の場所と映ったようだ。日本女性もまた、「純潔」を守ろうとした政府の思惑とは裏腹に。米軍兵士との愛の行為を広場で公然と楽しむようになる、と書いている。これでは、「性なる空間」ではないか?作者はそこまで書いていないが?

昔、渥美清主演の映画「拝啓、天皇陛下様」というのがあり、私の中学時代の場所も撮影場所として使われた。後で、完成品を見たとき、好く遊んだ原っぱが、出征兵士たちが見送りの恋人や若妻とおよそ10メートル間隔で、ススキかなにかの茂みで、愛の交換をおこなう場所としてエキストラの女性達が、手を引かれて笑いながら兵士達と茂みに屈みこむシーンが10秒ほどだと思うが映されていて、そこだけは子供心にショックを受けた。女性が着物の身繕いをして立ち上がるシーンもあり、私の誤解でないことはたしかである。

作家、高見順(1907〜1965)の日記でも、広場の情景が書かれている、という。10月18日づけ。

『濠の前の大きなビルにはいずれも進駐軍が入っている。ジープが濠端に並び、歩道を闊歩するアメリカ兵、濠端の草に腰を降して新聞や雑誌を読むアメリカ兵、日本人よりもアメリカ兵のほうが多いようだった。

日本人は、年若い娘の多いのが眼を惹いた。濠端で、 アメリカ兵を掴んだり、アメリカ兵に囲まれたり、・・・さらに、アメリカ兵にいかにも声をかけられたそうな様子で、でもまだ一人歩きの勇気はなく、二人三人と連れ立って、アメリカ兵のいる前を歩いている娘達。いずれも二十前の、事務員らしい服装だ。』(高見順日記、第5巻勁草書房、1965年)

戦前(1930年)も、日比谷署は、納涼がてらに広場で風紀を紊すものが多いので、7月27日夜、一斉取り締まりを行ったことはある、程度が昼間から日常となった。

政府の思惑は完全にはずれた。「鬼畜米英」だったはずの占領軍を、米軍兵士と会っていた日本女性のみならず、多くの日本人は喜んで迎え入れた。

それを象徴するのが46年3月1日に宮城前広場で開かれた「終戦感謝国民集会」である、という。平和日本建国記念祭制定国民委員会主催、とあり、主体が判然としないが、戦前に社会主義弁護士として活躍した布施辰治(1880〜1953)が企画したのだという。

そんなわけで、この集会は勝利ではなく敗戦を祝賀し、開放をもたらしてくれた占領軍に感謝することを目的としたそうである。

政治学者の袖井林二郎は、長男の柑二が著した辰治の評伝を引用しながら「『終戦感謝国民集会』は、みぞれの降る寒空の下で行われ多くもない参加者に向かって『布施氏は冷たい雨に打たれて”万歳”を三唱した』という。天皇に対してであったろうか、それともマッカーサーのための万歳で それはあったのだろうか」と。『拝啓マッカーサー元帥様』(大月書店、1985年)

両方に向かって、という意味も可能であり、日本語(二本語)だけでは解決しない問題だ。




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