金曜日, 7月 13, 2007



2005年5月発行だが、ラジオで取り上げられたのを契機に注文して購入、一年くらい前だと思うが、はっきり覚えていない。スポットライトで検索したら、昨年7月5日に注文した記録があった。

山で長年遭難者救出活動を続けているある人は、登山者を見ると、だいたい遭難するか
どうかわかるという。どういう違いでわかるかというと、後ろに仏像の光背のように何
かしらもやもやしたものが見えるという。現にそういう登山者に、この辺でおや
めになって下山したらとアドバイスしたことがあったが、俺は初心者ではなく、
何度も来て経験を積んでいるからと、無視されたが、案の定、遭難死したとい
う。死体の状況も事前にその人にはわかるという。この世とあの世とは、不思議
な縁でつながっている、と書き込んであった。

今はなくなったラジオ番組、吉田輝美氏のやる気満々でゲストインタビューで取り上げられていた。

さらに、遭難場所や、どういう格好で死体が雪などに埋まっているかもだいたい解ると言う。不思議な話し
で、多少の誇張もなくはないだろうが、遭難者の遺体が発見されて回収されるのには、こういう能力が発揮されているらしい。

もっと驚くのは、山菜取りで、奥さんがガードレールのすき間からかなり深い谷に転落して死亡した。夫は麓に連絡をとり、救出を請うた。捜索隊が到着したが、深い谷で、二重遭難が心配。それで、投光器をセットしたり、万全の体制をとって、たき火をして体を暖めたり、・・・。すると夫は、何をぐずぐずしてるんですか、家内が「呼んでいる」じゃないですか、とせかす。

それで、漸く救出作業に取り掛かろうとすると、夫が、家内が「呼んでいる」と言って、あっという間に、止めるまもなくガードレールを飛び越えて、奥さんの待つ、谷に自ら投身してしまったという。途中の岩にぶつかる音のあと、谷底に着地する厭な音まで皆聞いてしまった、という。

青森県白神山地での話しと言う。「何てこった」といいながら、サーチライトで谷底を照らすと、不思議に妻の脇に夫が倒れていた、という。まるで迎えに来たぞとでもいうかのようだった、とある。

それだけかと思っているとさらに先があった。「うちの親が落ちたって聞いてきたんですが、本当ですか」と一台の車で、今度は息子が駆けつけてきた。
「今、引き上げようとしているところだ、見ないほうがいい」

「そういったて、今、父さんと母さんが呼んでいる」とガードレールのそばに走り寄ろうとした。

「止めろ、そいつを止めろ、止めないとそいつまで呼ばれるぞ」皆であわてて息子を取り押さえる。
「何をするんですか、父さんと母さんが呼んでいる、あなた達には聞こえないのですか」・・・
興奮した息子はパトカーの後部座席に座らされ、飛び出さないように両側から警官がはさんだが、時折、逃げようとする犯罪者のように、外に出ようと繰り返した。とある。

その間、呼んでいると叫び続けたらしい。数時間後、両親の遺体が引き上げられ、それを見た息子は、今度は憑き物が落ちたように大人しくなり、遺体に取りすがって号泣した、という。これは13話の「呼ばれる」というタイトルの話。

あと、遺族や親族が、捜索隊が絶対に探さないようなところを、いくらそっちは可能性はないですよ、と諭しても、ちょっとまって、どうも何だかこっちのような気がすると言って聞かないので放っておくと、気になる場所で見つけるということも時々あるらしい。これは14話の「血が引く」という話。





私も若いとき、見学を兼ねて、山小屋で寝泊まりして仕事をしている友人の手伝いで、山小屋に数日泊り、そのときも、彼から、遭難者の話しなどをよく聞いたもので、そういう話しを受け入れる素地はあったのかもしれない。夏のことで、他の宿泊者も数組いて、半分キャンプ気分でいたのだが、冷静に考えると、山は
怖いところがあると昔から思っている。

昔から、山などを歩くと、どこかで死体に遭遇することがあるだろうな、という予感を心の底に持っている。幸い、まだ一度もそういう経験はないのだが。前回の川でのアユ調査では、水死体が堰に流れ着き、死後数日ということで大騒ぎだったという経験者は、コンビニ強盗の件で警官がバイクでパトロールに来たり、パトカーが橋の袂に来ただけで、すわ水死体か、と興奮ぎみだった。

この本は1500円プラス税で、55話からなり、中味は大きくわけて、

山の幽霊話 9話

人智を超えるもの 16話

自然の不思議 17話

ひとの不思議 13話 となっている。 先ほどの13話、14話は番号から言って、「人智を超えるもの」に入る。

幽霊話よりも「人智を超えるもの」の方が再読した記憶がある。

山のサークルで奥さん方を案内してくる男が、あるとき狙った人妻だけに連絡し、他の人たちは来ないようにして、二人だけでいつもの山小屋に来た、などという話しは「ひとの不思議」にある。

そうとは知らずに、この中高年登山ブームの陰で、というタイトルを最初に読んでしまった。

「ひどいわ、誤解されたら困るわ」と言っていた女性、夕食になり、ビールが入ると緊張感もほぐれ、男に注いだり、注がれたりして、時々笑い声も聞こえた、などとある。

夕食が終わると、星を見ようと男が誘った。「酔いざましにいいわね」女性も一緒に外に出た。

「すごい星、夜空がきれい」という声が聞こえる。男が星の説明をしているようだ。
「いろんな星を知っているのね、感心したわ。最初はどうなるかと思ってきたけど、きてよかったわ」

それから、しばらく声がしなくなった。やがて男が寒いと言って、女性の肩を抱くようにして山小屋へ入ってきた。女性はうっとりしたような顔をしていた。9時を過ぎていた。男は「もう寝ます」と隣の部屋の戸を開けた。「どこでも勝手に寝てください、今日は他の泊まり客はいませんから」




翌朝、用意していた朝食の前に二人が座った。女性は男のために箸をとってやったり、醤油をかけてやったり甲斐甲斐しくしていた。・・・食後のコーヒーも女性が男に砂糖をいれてかき混ぜて出してやっていた。

・・・「それから二人は山小屋を後にしたけど、恋人のように笑いながら歩いていったよ、・・・たった一晩で女性の態度ががらりと変わるというのが不思議でならないな。きっと家で御主人からやさしい言葉をかけてもらっていないんだ。・・・・」主人は首をかしげながら、「幽霊より何より、男と女のことが一番ミステリアスだよ」と、ため息まじりに呟いた、とあり、今読み返して、構成の妙味を改めて感じる。

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